表と裏の物語
世界中には変わった構成で作られた小説がたくさんあります。
普通の小説では読み飽きてしまったという方におすすめの一冊が、「風の裏側」という本です。
副題としてヘーローとレアンドロスの物語とされていることからもわかるように、二人の登場人物が主人公になっています。
ここまでは普通の小説と変わりないですが、変わった構成とされているのは造本の仕方にあります。
本の真ん中にあるページが境になっていて、それぞれの物語が逆さまになって印刷されているのです。
表と裏の物語のどちらから読んでも良いですが、それぞれの物語が組み合わさるとどんな展開が待ち受けているのか…が楽しみな展開と言えます。
著者はセルビア人の小説家であるミロラド・パヴィチで、彼は通常の小説とは異なる作品を発表しているのが特徴です。
最初から最後まで通して読むという従来の構成ではない作品ばかりであることが面白いです。
二人の主人公について
物語の中心人物となるのが、17世紀の石工だったレアンドロスという青年と、現在の女子大生であるヘーローです。
どちらから読むにもお好みですが、まずはレアンドロスの物語のあらすじをご紹介します。
レアンドロスが生きていた頃は各地で戦争が頻発していたことで運命に翻弄される人生を歩んでいました。
先祖代々石工として生きていきた家系に生まれたことで石工技術を身につけたレアンドロスでしたが、運命に導かれるようにして楽器奏者や商人へと変わって冒険を繰り広げていくという物語になっています。
一方、現代の女子大生であるヘーローの物語は、少し人と変わっている性格で不思議な日常生活が描かれています。
家庭教師をしている家で不思議な体験をすることになります。
本当は二人の子供に指導するはずだったのに、いつも勉強をしに来るのは一人だけなので、もう一人はどこへ行ってしまったのか…という謎が残ります。
実はこの物語の主人公二人は、古代ギリシア神話に登場するレアンドロスとヘーローが生まれ変わったという設定になっています。
古代ギリシア神話では海峡を隔てた場所に住んでいた二人ですが、毎晩彼女のヘーローに会うためにレアンドロスが海峡を泳いで渡っていたとされています。
しかし、ある時冬の嵐に巻き込まれてレアンドロスは溺死するという事態になり、ヘーローも後を追うようにして海に身を投げたという悲恋物語が元になっているそうです。
小説に登場する二人は海峡ではなく、時代に隔てられる形で生まれ変わっていますが、この二人がどのように再会することになるのか…が見どころといえます。
本の真ん中で物語を分けている水色の紙が実は古代ギリシア神話に登場する海峡をイメージしていると考えられます。